DXで在庫管理を効率化するには?製造業・海外拠点での進め方とポイント

製造業において、在庫管理は安定した生産や供給を支え、適切なコスト管理につなげるための重要な業務です。しかし、事業の拡大に伴って国内外に拠点が増えると、在庫の種類や保管場所、移動経路などが複雑になり、Excelや拠点ごとのシステムだけでは全体像を把握しにくくなることがあります。

特に海外拠点を含む場合は、物流のリードタイムや商習慣、既存システムなどの違いも考慮する必要があります。こうした在庫管理の課題に対応する方法として、データやデジタル技術を活用して業務を見直すDXが挙げられます。

この記事では、海外拠点を含む製造業のDX推進担当者に向けて、在庫管理をDXで効率化する主な方法や、導入時に注意したいポイント、全社展開の進め方を解説します。

1. 在庫管理のDXとは

在庫管理のDXでは、在庫情報をデジタルで管理するだけでなく、入出庫や発注、棚卸し、生産・販売計画などの情報を連携させ、業務の効率化や意思決定に活用します。まずは、在庫管理のDXで目指す状態や、製造業・海外拠点で在庫管理が複雑になりやすい理由を確認します。

1-1. 在庫管理のDXで目指す状態

在庫管理のDXでは、現在の在庫数に加えて、入出庫の記録や拠点別の在庫状況、移動中の在庫、発注状況、棚卸し結果などを把握し、販売計画や生産計画とも連携させながら、在庫管理の業務や判断に活用できる状態を目指します。

例えば、どの拠点にどの商品・部品があり、いつ補充が必要になるのかを把握できれば、担当者が個別に在庫を確認・集計する負担を減らし、欠品や過剰在庫への対応を検討しやすくなります。

また、在庫情報を経営や現場で共有し、生産・販売などの関連データと組み合わせて活用することで、部門や拠点を横断した在庫配置や発注量の見直しにもつなげられます。

このように、在庫情報をデジタルで管理することに加えて、蓄積したデータを業務改善や意思決定に活用していくことが、在庫管理のDXを進めるうえでのポイントです。

1-2. 製造業で在庫管理が複雑化しやすい理由

製造業では、原材料、部品、仕掛品、完成品、保守用部品など、さまざまな種類の在庫を管理します。

また、それらの在庫が工場内の工程間を移動したり、複数の工場や倉庫をまたいで輸送されたりするため、在庫の所在や数量を正確に把握するには多くの情報を管理する必要があります。

拠点ごとに異なるシステムやExcelを利用している場合は、データの更新タイミングや管理方法にも差が生じやすく、本社側で最新の状況を把握するまでに時間がかかることもあります。さらに、品目コードや在庫の単位、棚卸しルールなどが統一されていない場合、複数拠点のデータを集約しても、そのまま比較・分析できないケースがあります。

1-3. 海外拠点を含むと在庫管理がさらに難しくなる

海外の工場や倉庫を含む在庫管理では、国内だけで管理する場合と比べて、考慮する要素が増えます。

例えば、時差や言語に加えて、物流のリードタイム、通貨、現地の商習慣、利用しているローカルシステムなどが拠点ごとに異なる場合があります。

各拠点が独自の仕組みで在庫を管理していると、日本本社から現地の在庫状況をタイムリーに把握しにくくなります。その結果、ある拠点では在庫が不足している一方、別の拠点では余剰在庫を抱えるといった状況が生じる可能性があります。

2. DXで在庫管理を効率化する主な方法

在庫管理のDXでは、ERP(※1)やWMS(※2)などのシステム導入に加えて、現場での入力方法やデータの整備、販売・生産情報との連携なども併せて検討します。

ここでは、DXによって在庫管理を効率化する代表的な方法を紹介します。

※1・・・ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)とは、販売・会計・在庫・生産など、企業の基幹業務を一元管理するシステムのこと。
※2・・・WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)とは、倉庫内の入出庫・在庫・棚卸しなどの業務や情報を管理するシステムのこと。

2-1. 在庫データを一元管理する

ERPやWMSなどを活用し、入出庫、棚卸し、発注、在庫移動といったデータを一元的に管理します。

複数のシステムやExcelに情報が分散している場合、同じ在庫について異なる数値が存在したり、最新情報の確認に時間がかかったりすることがあります。データを一元管理することで、どの拠点にどの程度の在庫があるのかを確認しやすくなり、発注や生産計画などの判断にも活用しやすくなります。

ただし、システムを統合するだけで在庫情報が自動的に整うわけではありません。どのシステムのデータを基準とするのか、品目コードや倉庫コードをどのように統一するのかなど、マスタデータの管理方針も併せて検討する必要があります。

「コラム:ERPによる在庫管理」はこちら

「コラム:海外拠点向けERP」はこちら

2-2. 現場での在庫情報の入力を効率化する

紙の帳票や手入力による在庫管理では、入力漏れや転記ミスが発生する可能性があります。

そこで、バーコードやQRコード(※)、ハンディ端末などを活用し、入荷、出庫、棚卸し、在庫移動などのタイミングで情報を読み取る方法があります。現場で情報を読み取ってシステムへ登録できる仕組みを整えることで、入力や転記にかかる作業負担を抑え、在庫データをシステムへ反映するまでの時間短縮につなげられます。

導入時には、どの商品や部品にラベルを付与するのか、どのタイミングで読み取るのか、読み取りエラーが発生した場合にどう対応するのかなど、現場での運用ルールもあらかじめ整理しておくことが大切です。

※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

2-3. 在庫・販売・生産データを連携する

在庫データを販売計画や生産計画、購買、物流などの情報と連携させることで、関連する業務の判断に活用できます。

例えば、販売予定や受注情報を在庫データと組み合わせることで、今後必要となる在庫量を把握しやすくなります。また、生産計画や原材料の在庫情報を連携すれば、必要な部品が不足する可能性を事前に確認することもできます。

ERPやMES(※)、BIツールなどを連携し、在庫を含む関連データを横断的に確認できる環境を整えることで、欠品や過剰在庫の兆候を把握しやすくなります。

※MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)とは、製造現場における生産工程や作業状況などを管理するシステムのこと。

「コラム:DXにおけるデータ活用」はこちら

「コラム:ERPによる生産管理改革」はこちら

2-4. ダッシュボードで在庫状況を可視化する

収集した在庫データをBIツールなどのダッシュボードで可視化する方法もあります。

例えば、拠点別の在庫量や長期間動いていない滞留在庫、在庫回転率、欠品の可能性がある品目などを一覧で確認できるようにします。

従来、各拠点からExcelなどで報告を集めていた場合は、データを連携することで、集計作業を減らしながら最新の状況を確認しやすくなります。

ただし、情報を確認できるタイミングは、システム構成やデータの更新頻度によって異なります。どの程度の頻度で情報を更新する必要があるのかを業務ごとに整理し、経営層や現場が共通の指標を確認できる環境を整えることがポイントです。

3. 在庫管理のDXで失敗しやすいパターン

在庫管理のDXでは、高機能なシステムを導入しても、現場での運用やデータ整備が十分でなければ、期待した効果を得られない場合があります。

ここでは、在庫管理のDXを進める際に注意したい代表的な失敗パターンを紹介します。

3-1. 現場入力のルールが整わずデータが信頼されない

在庫管理システムを導入しても、入出庫を記録するタイミングや棚卸し方法が現場ごとに異なっていると、システム上の在庫数と実際の在庫数にずれが生じることがあります。

こうした状態が続くと、「システム上の在庫数が正しいのか分からない」と判断され、Excelや目視確認などによる別管理が残る原因にもなります。

対策として、入出庫を記録するタイミングや入力担当者、棚卸しの頻度、返品・廃棄などの例外処理についてルールを整理します。また、現場の作業負担が増えすぎないよう、バーコードやハンディ端末などを活用し、入力方法を簡素化することも検討します。

3-2. マスタが統一されず拠点間で比較できない

品目名や品目コード、単位、倉庫、取引先などのマスタデータが拠点ごとに異なっていると、ERPやBIツールでデータを集約しても、拠点間で比較・分析しにくい場合があります。

例えば、同じ部品を拠点ごとに異なる品目コードで管理していれば、システム上では別の在庫として扱われる可能性があります。

そのため、システム導入と併せて、全社で共通化するマスタと地域ごとに管理する項目を整理しておくことが大切です。また、新しい品目や取引先を登録する際のルールや責任者など、導入後のマスタ管理体制についても検討しておきます。

3-3. 本社標準をそのまま海外拠点へ展開して定着しない

日本本社で使用している在庫管理ルールやシステムを、そのまま海外工場や倉庫へ適用すると、現地での運用に合わない場合があります。物流条件や商習慣、法規制、既存システム、現場の人員体制などが日本とは異なるためです。

海外拠点へ展開する際は、グローバルで共通化する項目と現地固有の要件を切り分けて検討します。現地担当者にも要件整理の段階から参加してもらい、実際の業務フローや制約を確認することで、導入後の手戻りを抑えやすくなります。

3-4. ツール導入が目的化し、業務改善につながらない

WMSやERP、BIツールなどの導入自体が目的になってしまうケースにも注意が必要です。「在庫を可視化する」といった目的だけでは、導入後にどのような効果が得られたのかを判断しにくくなります。

例えば、在庫回転率の改善、欠品件数の削減、棚卸し工数の削減、過剰在庫の縮小など、現在の課題に応じた目標やKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定しておくことが大切です。また、導入後もKPIを継続的に確認し、その結果に応じて在庫量や業務プロセスを見直す運用につなげることがポイントです。

4. 海外拠点を含む在庫管理のDXを進めるポイント

海外拠点を含めて在庫管理のDXを進める場合は、各拠点の業務や在庫データの現状を把握したうえで、導入するシステムや仕組みを検討します。

そのうえで、グローバルで共通化する範囲と地域ごとの要件を整理し、主要拠点での検証を経て段階的に展開する方法があります。

4-1. 現状調査で在庫・業務・システムを棚卸しする

まずは、各拠点で扱っている在庫の種類や管理単位、利用しているシステム、Excelによる管理状況、棚卸し方法、入出庫フロー、物流のリードタイムなどを整理します。

在庫数に加えて、「どのタイミングで情報を入力しているのか」「誰が在庫データを更新しているのか」「システム外でどのような作業が発生しているのか」といった実際の運用まで確認します。

ERPの導入や刷新を伴う場合は、PIA(Pre-Implementation Assessment)などの導入前アセスメントを通じて、現行業務やシステム、マスタデータ、各拠点の個別要件などを整理する方法もあります。

SYSCOM GLOBAL SOLUTIONS(以下、SYSCOM)では、Microsoft Dynamics 365の導入に向けたアセスメントであるPIA(Pre-Implementation Assessment)を提供しています。

「Dynamics 365 導入アセスメント(PIA)の紹介動画」はこちら

4-2. 共通化する在庫項目と地域別要件を分ける

海外拠点を含む在庫管理では、グローバルで統一する項目と、地域ごとに対応する項目を整理します。

例えば、品目コード、倉庫コード、在庫区分、ロット管理の基本方針、経営管理に必要な在庫指標などは、全社で共通化する候補となります。一方、現地の法規制や商習慣、物流条件、税制、取引先との運用などによって個別対応が必要な項目は、地域別要件として整理します。

全社で共通化する範囲と現地の業務に合わせる範囲について、それぞれの目的や必要性を整理したうえで切り分けることがポイントです。

4-3. 主要拠点でテンプレートを作り、段階的に展開する

複数の工場や倉庫へ新しい在庫管理の仕組みを導入する場合は、主要拠点で先行導入し、標準テンプレートを作る方法があります。

先行拠点では、システム設定に加えて、品目・倉庫などのマスタ管理、入出庫の手順、棚卸し方法、担当者の役割なども含めて運用を検証します。そこで見つかった課題を改善し、システム設定や業務ルールを標準テンプレートとして整理したうえで、ほかの拠点へ展開します。

海外拠点では、標準テンプレートをベースに、現地固有の要件を追加・調整します。併せて、言語や時差を考慮したトレーニングや問い合わせ対応など、導入後のサポート体制も整えておくと、現地での運用を進めやすくなります。

「コラム:DXロードマップの作り方」はこちら

5. 在庫管理のDXならSYSCOMにご相談ください

海外の工場や倉庫を含めて在庫管理のDXを進める際は、本社と各拠点で異なる業務やデータの管理方法を整理しながら、システムや運用の仕組みを検討する必要があります。

また、ERPを中心とした業務システムに加えて、各拠点のネットワークやITインフラ、セキュリティなども含めて検討するケースがあります。

SYSCOMでは、Microsoft Dynamics 365をはじめとするERP導入やグローバル拠点への展開、海外拠点のITインフラ構築、ネットワーク・セキュリティの整備などを支援しています。日本本社と海外拠点の間に立つ日英バイリンガルPM(プロジェクトマネージャー)によるプロジェクト支援にも対応しています。

在庫管理を含め、海外拠点でDXを進める際には、システム導入後の運用体制や本社・現地の役割分担も整理しておく必要があります。海外拠点でDXが進みにくい背景や、人材不足を前提とした推進体制、段階的な進め方について詳しく知りたい方は、ホワイトペーパー「海外拠点DXはなぜ難しいのか? 人材不足時代のグローバル製造業DX実践ガイド」もぜひご覧ください。

「海外拠点DXはなぜ難しいのか?グローバル製造業DX実践ガイド」のダウンロードはこちら

まとめ|在庫管理のDXはデータ整備と現場運用の見直しから始める

在庫管理のDXを進めるには、ERPやWMSなどのツール導入と併せて、入出庫や棚卸しの運用、マスタデータ、販売・生産情報との連携などを見直していく必要があります。

導入にあたっては、過剰在庫の削減や欠品防止、棚卸し工数の削減などの目的とKPIを明確にし、現場で継続的に在庫データを更新できる運用を整えます。

海外拠点を含む場合は、全社で共通化する項目と地域ごとの要件を切り分け、主要拠点で運用を検証したうえで段階的に展開することも選択肢の一つです。

SYSCOMでは、海外拠点へのERP導入・展開をはじめ、ITインフラやセキュリティの整備などを幅広く支援しています。在庫管理の見直しや海外拠点へのシステム展開を検討している場合は、SYSCOMへご相談ください。

お問い合わせはこちら