DXにおける要件定義の進め方|海外拠点を含むDXで押さえたいポイント

DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する際は、システムやツールの選定に先立ち、「何を解決するのか」「どの業務をどのように変えるのか」を整理することが重要です。そのための工程の一つが要件定義です。

特に、国内外に複数の拠点を持つ企業では、拠点ごとの業務プロセスや既存システムに加えて、法規制や商習慣なども考慮する必要があるため、整理する要件が複雑になりやすい傾向があります。

この記事では、海外拠点を含む全社DXにおける要件定義について、整理しておきたい項目や具体的な進め方、要件定義を進める際のポイントを解説します。

1. DXにおける要件定義とは

DXにおける要件定義では、システムに必要な機能に加えて、DXによって解決したい業務課題や目指す状態を明確にし、その実現に必要な業務・データ・IT環境などを整理します。

まずは、DXにおける要件定義で整理する内容や、一般的なシステム導入における要件定義との違い、海外拠点を含む場合に考慮したいポイントを確認します。

1-1. DXの要件定義で整理すること

DXの要件定義では、導入するシステムの機能に加えて、解決したい業務課題や対象範囲、扱うデータ、利用部門、運用ルール、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)、セキュリティなど、さまざまな要件を整理します。

例えば、業務効率化を目的とする場合は、現在の業務プロセスのどこに課題があるのかを把握し、導入後にどのような業務フローへ変更するのかを検討します。

システムの導入自体を目的とするのではなく、DXによって業務や事業をどのように変えていくのかを明確にし、その実現に必要な条件を具体化していくことが重要です。

1-2. 通常のシステム導入における要件定義との違い

一般的なシステム導入の要件定義では、業務要件や機能要件、非機能要件などを整理し、導入するシステムに求める条件を具体化します。

DXを目的とする場合は、こうしたシステム要件に加えて、「どの業務をどのように変えるのか」「データをどのように活用するのか」「導入後の業務や役割をどう見直すのか」といった点まで検討します。

例えば、ERP(※)を刷新する場合、必要な機能を整理するだけでなく、部門や拠点ごとに異なる業務プロセスをどこまで共通化するのか、蓄積したデータを経営や現場の判断にどう活用するのかなどを整理します。

※ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)とは、販売・会計・在庫・生産など、企業の基幹業務を一元管理するシステムのこと。

1-3. 海外拠点を含むDXで要件定義が重要になる理由

海外拠点を含むDXプロジェクトでは、言語や時差、現地の商習慣や法規制、既存のローカルシステム、IT運用体制など、拠点ごとにさまざまな違いがあります。

日本本社の業務ルールやシステムを基準に要件を決めても、現地の業務や制度に合わなければ、追加のカスタマイズが必要になったり、導入後の運用が定着しにくくなったりする可能性があります。

一方で、各拠点の要望をすべて取り入れると、システムや業務が拠点ごとに個別最適化され、全社での標準化やデータ活用が難しくなる場合があります。そのため、全社で共通化する要件と各国・地域の事情に合わせる要件を整理し、グローバルで統一する範囲と現地に合わせる範囲を切り分けることが重要です。

2. DXの要件定義の具体的な進め方

DXの要件定義では、必要な機能の洗い出しから始めるのではなく、まず現在の業務やシステムを把握し、解決したい課題や目的を整理します。そのうえで、要件に優先順位を付け、導入後の成果を確認するためのKPIや運用体制まで具体化します。

2-1. 現状業務とシステムを棚卸しする

まずは、現在の業務フローや利用しているシステム、Excelなどによる個別管理、データの流れ、承認プロセスなどを整理します。

併せて、システム間を手作業でつないでいる業務や、特定の担当者しか対応できない属人的な業務、二重入力が発生している箇所なども洗い出します。

海外拠点を含む場合は、拠点ごとの業務手順や利用システム、データ管理方法などの違いも確認します。同じ業務名でも実際のプロセスが異なる場合があるため、各拠点の担当者へのヒアリングなどを通じて、実際の業務を把握します。

「コラム:DXロードマップの作り方」はこちら

2-2. 課題と目的を業務・データ・IT基盤に分ける

現状を把握したら、DXによって解決したい課題や目的を整理します。その際、「業務」「データ」「IT基盤・セキュリティ」といった領域に分けると、検討事項を整理しやすくなります。

例えば、在庫管理に課題がある場合、ERPの在庫管理機能を導入するだけで解決できるとは限りません。入出庫の業務フローを見直す「業務」の観点、品目や在庫データを統一する「データ」の観点、それらを支えるERPやネットワークなどの「IT基盤」の観点から整理します。

複数の視点から課題を整理することで、システムの導入だけでは対応しにくい問題も把握しやすくなり、必要な施策の優先順位を検討しやすくなります。

「コラム:DXにおけるデータ活用」はこちら

2-3. 要件を分類し、優先順位をつける

現状の課題や目的を整理したら、必要な要件を洗い出します。要件は、業務プロセスや運用に関する「業務要件」、システムに必要な機能を示す「機能要件」、性能やセキュリティ、可用性などに関する「非機能要件」などに整理できます。

さらに、各部門や拠点から挙がった要件について、初期導入で対応するものと、優先度に応じて後のフェーズで検討するものを分けます。

優先順位をつける際は、各部門からの要望に加えて、DXの目的や業務への影響度、実現に必要なコストなども踏まえて検討します。初期導入で対応する範囲を明確にすることで、プロジェクトのスコープを管理しやすくなります。

2-4. KPIと運用体制を決める

要件定義の段階では、システム導入後に「何をもって成果が出たと判断するのか」についても整理しておきます。

例えば、業務時間、承認までのリードタイム、問い合わせ件数、在庫差異率、月次締めにかかる日数など、DXの目的に応じたKPIを設定します。導入前の数値を把握しておけば、導入後の変化と比較し、施策の効果を確認しやすくなります。

併せて、導入後の運用体制についても検討します。問い合わせ対応やシステム更新、マスタデータの管理、KPIのモニタリングなどを誰が担うのかを整理し、責任者や担当部門を明確にしておきます。

3. DXの要件定義で失敗しやすいパターン

DXの要件定義が十分でない場合、開発や導入の段階で追加要件が発生したり、導入したシステムが現場で定着しなかったりする可能性があります。

ここでは、DXの要件定義を進める際に注意したい代表的なパターンを紹介します。

3-1. 現場ヒアリングが不足し、実際の業務に合わない

経営層やIT部門を中心に要件を決めると、実際の現場で発生している作業や例外的な業務が十分に反映されない場合があります。

例えば、通常の業務フローを基に要件を定義しても、現場で日常的に行われている手作業や、特定の条件で発生する例外処理を見落とす可能性があります。その結果、導入後に「実際の業務では使いにくい」「従来のExcelや手作業が残る」といった問題につながることもあります。

現場担当者へのヒアリングや業務フローの確認などを通じて、通常の業務に加えて、例外的な処理やシステム外で行われている作業も把握します。

3-2. 本社標準を海外拠点にそのまま適用してしまう

日本本社の業務ルールや承認フローを、現地の事情を十分に確認せず海外拠点へ適用すると、実際の業務に合わない場合があります。

海外では、法規制や税制、商習慣、言語、取引方法などが日本とは異なります。また、既存システムや現地ベンダーとの連携が必要になるケースもあります。そのため、全社で統一する要件と、地域ごとに対応する要件を整理し、それぞれの範囲を明確にします。

現地担当者にも要件定義の段階から参加してもらい、実際の業務や制約を確認しながら検討することで、導入後の手戻りを抑えやすくなります。

3-3. 要件が増え続けてスコープが膨らむ

関係部門や拠点へのヒアリングを進めるなかで、新たな要望が次々に挙がり、当初想定していたプロジェクトの範囲が広がることがあります。

すべての要望を取り入れると、開発費用や期間が増えるほか、システムが複雑になり、導入後の運用負荷が高まる可能性もあります。

こうしたスコープの拡大を抑えるには、DXの目的や業務への影響度などを踏まえて、要件に優先順位をつけます。また、要件を追加・変更する場合の承認者や判断基準など、変更管理のルールをあらかじめ整理しておくと、プロジェクトの範囲を管理しやすくなります。

3-4. データ移行や運用要件の検討が不足し、手戻りが増える

業務要件や機能要件を整理していても、マスタデータの整備や既存データの移行、他システムとの連携、アクセス権限、セキュリティ、運用体制などの検討が不足していると、開発・導入段階で問題が発生することがあります。

例えば、新しいERPへデータを移行する段階で、品目コードが拠点ごとに異なることが判明すれば、追加のデータ整備が必要になります。

こうした手戻りを抑えるため、要件定義の段階からデータ移行やマスタ管理、システム連携、セキュリティ、導入後の運用なども確認しておきます。

4. 海外拠点を含むDXの要件定義を進めるポイント

海外拠点を含むDXでは、本社と各拠点の要望を集約するだけでなく、グローバル全体で共通化する範囲と、現地に合わせる範囲を整理する必要があります。また、最初からすべての拠点へ展開するのではなく、事前のアセスメントや先行導入を通じて課題を確認しながら、段階的に展開する方法もあります。

4-1. 共通要件と地域別要件を切り分ける

海外拠点を含む要件定義では、まずグローバルで共通化する要件と、国・地域ごとに対応する要件を整理します。

例えば、全社共通の商品・取引先コードやセキュリティ基準、経営管理に必要なデータ項目などは、グローバルで共通化する候補となります。一方、各国の税制や法規制、商習慣、言語、帳票、現地ベンダーとの連携などについては、地域ごとの対応が必要になる場合があります。

共通化する範囲を決める際は、「なぜ共通化するのか」「なぜ現地での対応が必要なのか」を整理し、それぞれの要件を切り分けます。

4-2. PIAや導入前のアセスメントで課題を整理する

ERPなどの基幹システムの導入や海外拠点への展開を伴う場合は、本格導入に入る前に、現状や課題を整理するアセスメントを実施する方法があります。

例えば、SYSCOM GLOBAL SOLUTIONS(以下、SYSCOM)では、Microsoft Dynamics 365の導入に向けたアセスメントであるPIA(Pre-Implementation Assessment)を提供しています。

現行の業務や利用システム、マスタデータ、データ連携、各拠点の要件などを事前に確認することで、導入に必要な範囲や課題を把握し、プロジェクト計画や要件定義に反映しやすくなります。

海外拠点を含むプロジェクトでは、現地固有の業務やシステム、法規制なども考慮する必要があります。導入前の段階から各拠点の担当者と情報を共有し、現地の状況を把握しておくことで、要件の抜け漏れや導入後の手戻りを抑えやすくなります。

「コラム:海外拠点向けERP」はこちら

「Dynamics 365 導入アセスメント(PIA)の紹介動画」はこちら

4-3. 主要拠点でテンプレートを作り、段階的に展開する

複数の拠点へシステムを導入する場合は、最初から全拠点へ一斉に展開せず、主要な拠点で先行導入する方法があります。

まず、日本本社や主要な海外拠点などで共通要件を基に、システム設定や業務プロセスの標準テンプレートを作成し、実際の運用を通じて課題や改善点を確認します。その結果を踏まえてテンプレートを見直し、ほかの拠点へ展開する際には、共通部分を活用しながら地域固有の要件を追加・調整します。

段階的に展開することで、先行拠点で得られた知見を次の拠点に反映しながら、グローバルでの標準化を進めやすくなります。

「コラム:海外拠点におけるDX」はこちら

5. 海外拠点を含むDXの要件整理・導入支援はSYSCOMにご相談ください

海外拠点を含むDXでは、業務やシステム、データの要件を整理することに加えて、本社と海外拠点の間で認識を合わせながらプロジェクトを進める体制も求められます。

特に、拠点ごとに業務プロセスや既存システム、法規制などが異なる場合は、グローバルで共通化する範囲と現地に合わせる範囲を整理し、それぞれの要件をシステムや運用に反映していく必要があります。

SYSCOMでは、Microsoft Dynamics 365をはじめとするERP・CRMの導入支援、ITインフラの整備、セキュリティ対策、プロジェクトマネジメントなど、海外拠点を含むDX推進に必要なIT領域を幅広く支援しています。日本本社と海外拠点の間に立つ日英バイリンガルPMによるプロジェクト推進を支援しています。海外拠点を含むDXの要件整理やシステム導入に課題がある場合は、SYSCOMへご相談ください。

海外拠点でDXを進める際は、システム導入後の運用体制や、本社・現地の役割分担まで含めて検討することも重要です。海外拠点DXが進みにくい背景や、人材不足を前提とした推進体制、段階的な進め方について詳しく知りたい方は、ホワイトペーパー「海外拠点DXはなぜ難しいのか? 人材不足時代のグローバル製造業DX実践ガイド」もぜひご覧ください。

「海外拠点DXはなぜ難しいのか?グローバル製造業DX実践ガイド」のダウンロードはこちら

まとめ|DXの要件定義は業務・データ・IT基盤を一体で整理する

DXの要件定義では、システムに必要な機能に加えて、解決したい業務課題やデータ、IT基盤、セキュリティ、運用体制、KPIなどを整理します。

特に海外拠点を含む場合は、本社の要件をそのまま展開するのではなく、グローバルで共通化する要件と地域ごとに対応する要件を切り分け、現地の担当者も交えて検討します。

また、事前のアセスメントや主要拠点での先行導入を通じて課題を把握し、標準テンプレートを整えながら段階的に展開することで、手戻りや過度な個別対応を抑えやすくなります。

SYSCOMでは、海外拠点を含むDXについて、要件整理、システム導入、プロジェクトマネジメントなどを幅広く支援しています。海外拠点を含むDXの進め方や要件定義に課題がある場合は、ぜひご相談ください。

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