海外拠点におけるDXとは?事例から学ぶ進め方と失敗につながりやすい原因

企業のグローバル化が進むなか、海外の関連会社や工場、販売拠点を含めてDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業もあります。

海外拠点を含むDXでは、国内だけで進める場合と比べて、業務プロセスや既存システム、法規制、商習慣、言語など、考慮する要素が増えます。本社で設計した仕組みをそのまま展開しても、現地の実態に合わず、十分に活用されない場合もあります。

この記事では、海外拠点を含むDXを検討している担当者に向けて、SYSCOM GLOBAL SOLUTIONS(以下、SYSCOM)の事例を交えながら、海外拠点におけるDXの取り組みを紹介します。併せて、失敗につながりやすい原因や、海外拠点でDXを進める際のポイントを解説します。

1. 海外拠点におけるDXとは

海外拠点を含めてDXを進める際は、本社と各拠点の業務やデータ、IT環境などを把握し、どこまで共通化するか、どこを現地に合わせるかを検討します。まずは、海外拠点におけるDXで目指す状態や、進める際に考慮すべきポイントを整理します。

1-1. 海外拠点におけるDXで目指す状態

海外拠点におけるDXでは、海外の関連会社や工場、販売拠点を含めて、業務プロセスやデータ、IT基盤などを見直し、業務の効率化やデータ活用につなげていきます。

例えば、拠点ごとに異なる業務システムやデータの管理方法を整理し、本社と海外拠点で必要な情報を共有できる環境を整える方法があります。また、業務プロセスやデータの管理方法を共通化することで、拠点を横断した情報の把握や活用につなげることもできます。

システムの導入自体を目的とするのではなく、現在の業務や情報の流れを把握し、DXによってどのような状態を目指すのかを整理することが重要です。

1-2. 海外拠点でDXを進める際に考慮したいこと

海外拠点でDXを進める場合は、国や地域による法規制や商習慣、言語、既存システム、IT環境などの違いを考慮します。

主なポイントは、以下のとおりです。

観点海外拠点を含む場合に考慮したいこと
法規制・商習慣国・地域ごとの法規制や商習慣を確認する
言語・時差言語や時差を踏まえてプロジェクトの進め方や支援体制を検討する
IT環境既存システムやネットワーク、IT体制・運用体制などを確認する
業務プロセス現地の業務実態を把握し、共通化できる範囲を検討する
システム展開グローバルで共通化する範囲と現地に合わせる範囲を整理する

本社で利用しているシステムや業務フローをそのまま海外拠点へ展開すると、現地の業務や制度に合わない場合があります。一方で、各拠点の要望を個別に反映しすぎると、システムや業務が拠点ごとに異なり、全社でのデータ活用が難しくなる可能性があります。

そのため、グローバルで共通化する要件と、各国・地域の事情に合わせる要件を切り分けて検討します。

1-3. 海外拠点のDX事例から学べること

海外拠点におけるDXは、対象となる業務や拠点の状況によって進め方が異なります。例えば、新たな海外拠点の開設に合わせてIT基盤を整備するケースや、ERP(※)を導入・刷新して複数拠点の業務やデータを共通化するケースなどがあります。

事例を参考にする際は、導入したシステムだけでなく、「どのような課題があったのか」「どの範囲から取り組んだのか」「どのように海外拠点へ展開したのか」といった点を確認すると、自社での進め方を検討する際の参考になります。

※ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)とは、販売・会計・在庫・生産など、企業の基幹業務を一元管理するシステムのこと。

2. SYSCOMの事例から見る海外拠点におけるDXの取り組み

海外拠点におけるDXは、企業の課題や対象業務、拠点の状況によって取り組み方が異なります。ここでは、SYSCOMが支援した事例を通じて、IT基盤の整備、ERPの刷新・標準化、現場業務のデジタル化といった取り組みを紹介します。

2-1. TOTO USA|新工場立ち上げに合わせてIT基盤を整備した事例

TOTO USA, Inc.では、米国の新工場立ち上げにあたり、生産エリアやオフィス、セキュリティ設備などを支えるネットワークインフラを新たに整備する必要がありました。

そこで、SYSCOMは光ファイバーとLANケーブルを組み合わせた配線インフラを設計・構築し、Cisco Merakiを活用してネットワークを一元管理できる環境を整備しました。また、同工場では、製品ごとにQRコード(※)を付与して製造データをトラッキングする仕組みや、設備の稼働状況をリモートで確認・制御できる環境も整備されています。これらを支える基盤として、安定したネットワークやデータアクセス環境の整備が重要でした。

これにより、製造データの活用や日本本社から米国工場への技術支援を進めやすい環境が整いました。新工場の立ち上げ段階から、データ活用やリモート監視を支えるIT基盤を整備した事例です。

※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

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2-2. SNFハイモ株式会社|ERP刷新でグローバル業務基盤を整備した事例

SNFハイモ株式会社では、既存のSAPシステムの保守終了やオンプレミス環境の維持負担、将来的な拡張性などを背景に、基幹システムの刷新が課題となっていました。

そこで、SaaS型のMicrosoft Dynamics 365 Finance & Supply Chain Managementへ移行しました。導入にあたっては、業務担当者へのヒアリングを通じて、Dynamics 365の標準機能との差分や既存業務の暗黙ルールを整理し、業務フロー図や画面イメージを用いて完成形を共有しながら移行を進めています。

これにより、オンプレミス環境の維持負担を抑えながら、Excelへのデータ出力やデータ活用を進めやすい環境が整いました。また、Microsoft製品との連携を活かし、将来的なCopilotやPower Platformの活用による業務効率化にも期待が広がっている事例です。

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2-3. 積水化学工業株式会社|海外拠点へのERP標準化を進めた事例

積水化学工業株式会社では、M&Aによって拡大した海外拠点で異なるERPが利用されており、会計業務の標準化や海外拠点のデータ把握が課題となっていました。

そこで、Microsoft Dynamics AXを海外拠点の標準ERPとして採用し、グローバルテンプレートやリージョナルテンプレートを活用しながら、メキシコ拠点から北米拠点へ段階的に展開しました。導入時には、業務プロセスフローや手順書を整備し、ユーザーテストを通じて各拠点の業務を確認しながら移行を進めています。

導入後は、各拠点の会計データを日本本社から確認できる環境が整い、連結決算における確認作業を進めやすくなりました。先行拠点で得た知見を活用しながら、海外拠点へ標準ERPを段階的に展開した事例です。

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2-4. 合成樹脂の製造販売会社|Power Platformで現場業務を効率化した事例

米国の合成樹脂メーカー拠点では、承認や確認をメールで行っていたため、差し戻しや担当者不在によって業務が滞ることが課題となっていました。また、日本本社で導入していたPower Automateを活用した仕組みを、米国拠点にも展開したいというニーズがありました。

そこで、既存のMicrosoft 365環境を活用し、Power AutomateやPower Appsによって、新規顧客の承認、経費・コストの承認、注文・出荷管理など、業務に必要な複数のフローやアプリケーションを作成しました。導入にあたっては、SYSCOMのバイリンガルエンジニアが、日本人駐在員と現地スタッフの間に立ってシステム構築や運用を支援しています。

これにより、承認状況や関連情報を一元的に管理できるようになり、メールによる確認作業や手戻りの削減につながりました。また、Microsoft Teamsと連携することで、承認業務をよりスムーズに進められる環境も整えられました。

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3. 海外拠点のDXで失敗につながりやすい原因

海外拠点でDXを進める際は、システムそのものに問題がなくても、現地要件の確認不足や運用体制、データ整備などが原因で、導入後の活用が進まない場合があります。ここでは、海外拠点におけるDXで注意したい代表的な失敗パターンを紹介します。

3-1. 本社標準が現地の業務に合わず定着しにくい

日本本社で決めた業務フローや承認ルールを、現地の状況を十分に確認せず海外拠点へ展開すると、実際の業務に合わない場合があります。

国や地域によって、税制や法規制、商習慣、取引方法、使用言語などが異なるためです。現地の業務に合わない状態で導入すると、システム外での作業が増えたり、従来のExcelやローカルシステムが残ったりする可能性があります。

対策として、全社で共通化する業務やデータと、地域ごとに対応する要件を事前に整理します。併せて、要件定義の段階から現地担当者にも参加してもらい、実際の業務や制約を確認します。

3-2. ツール導入が目的化し、業務改善につながりにくい

ERPやRPA、AI、BIなどのツールを導入すること自体が目的になるケースにも注意が必要です。

現在の業務課題やデータの状況を十分に整理しないままツールを導入すると、「何を改善するために導入したのか」が曖昧になり、導入後の成果も判断しにくくなります。

導入前に、解決したい課題や対象業務、目指す状態を整理し、成果を確認するためのKPIを設定します。また、導入後の運用責任者やデータの管理方法についても整理しておくことで、継続的な運用につなげやすくなります。

3-3. 現地IT体制やサポートが不足し、運用が滞る

海外拠点では、IT担当者の人数やスキル、サポート体制が日本本社と異なる場合があります。

新しいシステムを導入しても、問い合わせ先が日本に限られている場合は、時差によって対応に時間がかかることがあります。また、日本語のマニュアルだけでは、現地担当者が内容を十分に理解できない可能性もあります。

そのため、導入時には現地担当者へのトレーニングや多言語でのマニュアル整備、問い合わせ先、障害発生時の対応フローなども併せて検討します。必要に応じて、本社と現地の間に立って要件や課題を整理できるバイリンガルPMや、現地事情に詳しいITパートナーを活用する方法もあります。

3-4. データやマスタが統一されず、全社で活用しにくい

ERPやBIツールを導入しても、品目、取引先、拠点、勘定科目などのマスタデータが各拠点で異なっていれば、全社横断での集計や比較が難しくなります。

例えば、同じ製品を各拠点で異なる品目コードで管理している場合、システム上では別のデータとして扱われる可能性があります。

そのため、システム導入前の段階で、全社で共通化するマスタやコード体系を整理します。併せて、新しいマスタを誰が登録するのか、どのようなルールで更新するのかといった管理体制も決めておくことで、導入後もデータを継続的に管理しやすくなります。

4. 海外拠点におけるDXの進め方

海外拠点でDXを進める際は、各拠点の業務やシステム、データの現状を把握したうえで、導入するツールや仕組みを検討します。そのうえで、グローバルで共通化する領域と地域ごとに対応する領域を整理し、主要拠点での検証を経て段階的に展開します。

4-1. STEP1|現状調査で業務・システム・データを棚卸しする

まずは、各拠点で行われている業務や利用しているシステム、ネットワーク、セキュリティ、マスタデータ、現地固有の要件などを整理します。

同じ業務でも拠点によって手順が異なったり、システム外でExcelや手作業による処理が行われていたりする場合があります。こうした現状を把握しないままシステムを選定すると、導入後に追加要件が判明し、設定変更や追加対応が必要になることもあります。

ERPの導入や大規模なシステム刷新を伴う場合は、導入前のアセスメントなどを通じて、業務・データ・システム上の課題を整理する方法もあります。

SYSCOMでは、Microsoft Dynamics 365の導入に向けたアセスメントであるPIA(Pre-Implementation Assessment)を提供しています。

4-2. STEP2|共通化する領域と地域別要件を分ける

現状を整理したら、グローバル全体で共通化する領域と、各国・地域で個別に対応する領域を切り分けます。

例えば、経営管理に必要なデータ項目やセキュリティ基準、品目・取引先などのマスタ管理方針は、全社で共通化する候補となります。一方、現地の法規制や税制、商習慣、帳票、取引先との運用などは、地域ごとの対応が必要になる場合があります。それぞれの目的や必要性を整理したうえで、全社で共通化する範囲と地域ごとに対応する範囲を決めます。

4-3. STEP3|主要拠点でテンプレートを作り、段階的に展開する

複数の海外拠点へシステムを展開する場合は、主要拠点で先行導入し、標準テンプレートを作る方法があります。

先行拠点では、システム設定や業務プロセス、マスタ管理、運用ルールなどを検証し、課題があれば見直します。その結果を標準テンプレートとして整理し、次の拠点では共通部分を活用しながら、必要な地域別要件を追加・調整します。

段階的に展開することで、先行拠点で得られた知見を活用しながら、拠点ごとに一から設計する負担を抑えやすくなります。

「コラム:DXロードマップの作り方」はこちら

4-4. STEP4|本社と現地をつなぐ推進体制を整える

海外拠点でDXを進める際は、日本本社の業務部門・IT部門、海外拠点の担当者、外部ベンダーなど、複数の関係者がプロジェクトに参加します。

言語や時差、商習慣などの違いもあるため、要件や進め方について関係者の認識にずれが生じる可能性があります。

本社と現地の双方の要望や制約を整理し、関係者の認識を合わせながらプロジェクトを進められる体制を整えます。

日本語・英語の双方でコミュニケーションできるバイリンガルPMや、海外拠点のIT環境に詳しいパートナーを活用し、要件整理から導入後の運用定着までを見据えて、プロジェクトを進めやすい体制を構築する方法もあります。

まとめ|海外拠点のDXは現地の状況を踏まえて段階的に進める

海外拠点におけるDXでは、本社と海外拠点の業務・データ・IT基盤を整理し、ERPやデータ活用、ネットワーク、セキュリティ、業務自動化など、必要な取り組みを検討します。

海外拠点へシステムや仕組みを展開する際は、各拠点の業務やデータ、IT環境を把握したうえで、グローバルで共通化する領域と地域ごとに対応する領域を切り分けます。

また、主要拠点で先行導入し、そこで得られた知見を他拠点への展開に活かす方法もあります。併せて、本社と現地の間で要件や課題を調整できる推進体制を整え、導入後の運用も見据えてプロジェクトを進めます。

SYSCOMでは、Microsoft Dynamics 365をはじめとするERP導入・グローバル展開、海外拠点のITインフラ構築、セキュリティ対策、日英バイリンガルPMによるプロジェクト推進支援などに対応しています。海外拠点におけるDXやシステム展開を検討している場合は、SYSCOMへご相談ください。

また、北米拠点におけるIT整備やERP統合、セキュリティ対策の具体的な事例を知りたい方は、ホワイトペーパー「【製造業向け】北米拠点IT支援導入事例集」もご覧ください。インフラ整備、工場セキュリティ、ERP統合の3つのテーマで、実際の導入事例や進め方を紹介しています。

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